あふれる舞人生

あふれる舞人生

名前を聞いたとたん


両親からこの結婚のことを聞くまでは。

「もともとお祖父ちゃんがあちらのお祖父様と約束してきた話なんだ。だが、あちらは日向グループという財閥の御曹司、あまりにも釣り合わない話だ。親としては時期が来たら辞退しようと思っていたんだよ。だが、我が家の経済状態が悪すぎて、見かねたあちらから援助を申し込まれた。お前は今年大学を卒業するからいいのだが、弟の進学はこれからだ。この話はお前さえ嫌でなければということが前提にあるのだが、どうだろう。一度会って考えてみてはくれないだろうか。もし、いい人なら…」

相手の名前は、日向葵(ひゅうがあおい)陽光女傭
『ひまわり』の花の別称を持つその人に、会ってみたいと思った。
その花のように明るい人だといいなという微かな期待を抱いて。

結婚式では、ふたりが神の前で誓った言葉になんの意味もないことは明らかだった。
誓いの口づけですら、相手には形式的なものだったのだろう。
わたしは初めてだったのに。

バージンロードをふたりで歩こうとした時、躓いたわたしを咄嗟に抱きとめてくれた腕の逞しさと温かさが唯一の救いだった。
それだけをよすがに、虚しい披露宴をぎこちない笑顔をを浮かべて耐えた陽光女傭
会場をひまわりの花でいっぱいにしたわたしの想いなど、彼には全く通じていないようだったけれど、わたしは涙が出そうになるたびに陽光のように輝くひまわりの花びらを見つめていた。

「おめでとう」
「幸せにね」

祝福の言葉も、辛く響くだけだった。


ひまわり1-2-300


披露宴が終わり、ホテルに取ってあったスイートルームにたどり着いた時には心身ともに疲れ果てていた。
部屋に着くまで、相手は無言だった。
わたしから話しかけられるはずもない、拒絶のオーラ。

彼は彫刻のように美しく端正な顔を、さらに冷たく血の通わない彫刻そのもののようにして黙り込んでいた。

「シャワーを浴びてくる」

それが、初めて聞いた言葉だった。
パタンと乾いた音がして、彼が浴室に消えた陽光女傭
残された私は、何をどうして良いのかも分からずソファに座り込んだ。

着替えをカバンから出そうかしら
お水を一口飲もうかしら

取り留めもなく今日1日を思い出しているうちに、わたしは瞼が降りてきて重くなり、いつしか眠ってしまった。