あふれる舞人生

あふれる舞人生

そのうちのいく

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 その時、電話がかかってきた。さっきの単調な男の声だ。
「さっきの指示の件は、進めてもらえるだろうな」
「はい、しかし、どうも気が進みません。あんなものの開発を進めていいのでしょ
うか。いったい、本社での本当の決定なのですか。あなたはどなたです」
「文句を言うな。そのままやればいいのだ。従わないとお前に不利になるぞ。お前
の個dermes 脫毛價錢人情報についての、感心しない部分があかるみにでる。別れた奥さんの情報を
ひそかにのぞき、楽しんでいたこともな……」
「ああ……」
 津田は驚きのうめき声を出した。別れた妻の秘密をのぞき、つか
を自分の情報メモに移しておいたのだ。その弱味をだれかにつかまれてしまったら
しい。それに、空想愛好の傾向がある性格のことを人びとに知られては、会社づと
めとして困ることになる。
「どうだ。文句をいったり、こちらがだれかなど質問をするな」
「はい……」
 津田は青ざめた。自分の心のなかに、なにものかが土足でふみこんできたような
感じがした。
 その動揺につけこみ、相手の声は言った。
「それから、お客のコード番号と卜維廉中學 姓名との確認をやりたい。すぐ用意をしてくれ」

「しかし、それは……」
「お前の責任には絶対にならぬようにやるから、心配するな。いやなら……」
「わかりました」
 複雑なボタンの操作で、それはたちまちのうちにどこかへと伝達された。津田は
思う。この相手は、おれの秘密を知っている。個人情報をのぞいたにちがいない。

 目に見えぬ相手への怒りが、彼にやけをおこさせた。
 それでも、一瞬の反省はある。しかし、この指令を拒否できたかとなると、それ
は不可能だったのだ。自己の秘密の公表の拡大は、なんとかして防止せねばならぬ
。それがなされたら、自分の存在価値がない、死体同然になってしまうと思えたの
だ。規則無視の罰よりも大切なことだ。
 さっきは他人の秘密について客観的な考えができた津田も、ことが自分におよぶ
と、平然とはしていられなかった。矛盾だ。
 しかし、彼はこんなふうにも思った。秘密を守りたがるのは本能なのだ、理屈じ
ゃどうしようもないことなのだと。
 津田はまた研究所に行った。
「本社では文句をいうなとさ」
 すると、技師もさっきと一変して、すなおに答えた。
「やりましょう」
 そのようすから、この技師もあの声にやられたのかもしれないように思えた。ど
こでなにが動いているのだろう。津田には見当もつかなかった。そして、そんなこ
とより、彼にとっては帰宅してからの、ひとりの時間のほうが大貓罐頭切なのだった。ひ
とりで勝手なもの思いにふけりたいのだ。
 彼は退社時間になると、四階の室に帰宅し、もの思いをたのしんだ。四月のけだ
るい夕暮を窓のそとに眺めながら……。